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ボルネオ島の熱帯雨林で学んだこと2003年
研修レポート

西巻 宏子(野生動物学科)





… 原始の国へ行く? …
高度を下げた飛行機の窓からボルネオ島がうっすらと見えてきた。「いよいよ着くんだ」と思うと、緊張で身体が硬くなてきた。しかし空港に近づくと、道路沿いには街灯が灯っている。
すぐにチェックインしたホテルの部屋は冷房が効き、豪華なベッドにテレビもある。「原始の国にいくゾ!」と勝手にイメージを膨らませていた私は、何だか拍子抜けしてしまった。


… 動物たちの出迎え …
翌朝国立公園に入るため、車で船着き場へ向かった。
桟橋に立つと熱帯雨林特有の茶色くにごった川、見るからにオンボロな船(実はこれに乗った)、そして川向こうには高床式でバラック状の住居が立ち並んでいた。
 ボートが走り出すと、両岸にはマングローブが現れ、いつしかボートは海へ出た。
「公害防止のため船でしか国立公園には入れない」ときかされていた。この地を訪れた人に感激を与える入山方法だ。同時に「やっとボルネオの熱帯雨林にやって来たんだ」という実感がわいてきた。やがて岸は切り立った崖となり、その後砂浜が現れたと思ったら、じきに国立公園の桟橋に到着した。近くで数人の西洋人がカメラを構えていたので、「何かいるのか」と思ったら、マングローブの枝の中からテングザルの姿が見え隠れしていた。私たちはバコ国立公園初日の、しかも第一歩目でボルネオ島固有種の出迎えを受けた。さらにシルバーリーフモンキー現れ、幸先の良いスタートを切ることができた。宿泊したロッジにはNHK「地球ふしぎ大自然」の撮影スタッフも滞在していてフライングレムールの観察や撮影は、ハイビジョン撮影用の照明を使って行うことができた。

… 課題に取り組む …
今回の研修の内容は、二つに別けることができる。
1.熱帯雨林のトレッキング
これはガイドの鍋島さんを先頭に熱帯雨林に入り、自分自身で観察、撮影して学ぶことである
まず私たちは、リンタントレイルという熱帯雨林の周回コースを歩いた。初めは「きっと変な虫がゴソゴソいるはず」と気乗りしなかったが、いざ歩き出すと芸術的なアリの大行進、巨木の幹、すばやく飛ぶナナフシと、見るもの全てが不思議の連続であった。
2.野生動物の調査
課題に出された動物の基礎事項は、すでに授業で学習している。現地では実際にその動物を探して、行動や生態を観察、記録するというものである。
 課題の中には、カニクイザルの一群れのメンバーを全てカウントするという難しいものもあった。これらの課題については、全員が協力して調査にあたったので、大型から中型の動物は順調に発見することができた。一方小型のメガネザル、スローロリスなどは、懐中電灯を使って夜間も探したがだめだった。しかしそうかとおもえば課題には無い美しいヘビや、青白く光る美しいキノコが見つかったりした。

… カニクイザルの調査と撮影 …
カニクイザル1郡の頭数調査結果
通過時間 通過頭数
17:25 3頭  
17:26 1頭  
17:27 4頭  
17:28 1頭  
17:29 5頭  
17:30 3頭  
17:31 3頭  
17:32 2頭  
17:35 1頭  
17:37 2頭 ※1
17:38 2頭  
17:39 1頭  
17:40 2頭 ※2
合計頭数 30頭  
※1 子連れの個体
※2 ボスザル
     
バコ国立公園における動物の優占種はカニクイザルである。彼らは「隙あらば」とばかりに食堂にやってきて、網戸を器用に開けて食堂に入ってくる。今回の滞在で唯一探す必要が無かったのは、カニクイザルだけであった。しかし、彼等はよく人前に姿を現すものの、とても広く分布していて、とても普段の行動からは群れの構成を把握しボスザルを特定することはとてもむずかしい。そこで今回の群れのメンバーを数える調査では、早朝に寝ぐらの樹から降りてくるところを数えることにした。私たちは前日の夜、海岸線近くの高い松の木で彼らが寝ているのを発見していた。翌朝、私たちは4時起き(眠い)して松の木近くに待機した。しかし朝のカニクイザルは神経質で、数を数えるどころではなく、あっという間に四方八方に分散してしまった。次に「朝がだめなら夕方」と作戦を変更した。午後4時になると朝の群れが山から帰ってきて、ロッジ周辺でガサゴソとやっている。私たちは彼らより先回りして、彼らの寝ぐら前の開けた場所で待機した。
 体にたかる蚊を叩きながら待つこと30分。ロッジの方から3頭の先頭隊がゆっくりと道を歩いてやってきた。朝とはまるで違い、3頭は人の存在をほとんど気にすることなくゆっくりと通り過ぎてゆく。メンバーは、ほぼ1分間隔で、数頭ずつ通過していった。

… ボスザルの勇気と行動 …
ほとんどの固体が通過していった後の5時40分、最後の2頭が現れた。1頭は人間のことをチラリと見てから待ち受けていたもう1頭のメスと交尾した。この1頭がボスザルであり、交尾の回数は3回に及んだ。通常、野生動物は人前では交尾をすることはない。短時間であれ、危険な時間帯だからである。しかし、ボスザルは「人間なんて怖くない」という勇気を、行動で他の雄や多くの雌に示したのである。

食事中のカニクイザル

カニクイザルの赤ちゃん

人前で交尾をするカニクイザルのボス

子連れのメスザル

… 動物と植物の関係 …
テングザル、及びシルバーの葉を食べるリーフモンキーは、餌場であるマングローブ林に行って観察した。海水が引く干潮時には、マングローブ林に降りて、より有利な観察ポイントを探した。特に興味深かったのは、シルバーリーフモンキーたちの葉の食べ方である。彼らは葉の下の部分だけを食べて後はすぐ捨ててしまう。葉の付け根には太く硬い葉脈がある。彼らにはこの部分が旨いらしい。または、この部分が何らかの消化に役立っているのかもしれない。また、葉が落ちた木の下には、落ちた葉を食べるヤドカリがたくさんいた。植物は、サルを利用してヤドカリを集め、その糞や古びて捨てられた貝殻のカルシウムを肥料として使っているのかもしれない。これは仮設だが動けない植物の「肥料集め作戦」だとしたら凄いことだと思う。

ボルネオ島の代名詞テングザル

シルバーリーフモンキー

シルバーリーフモンキーが捨てた葉。
食いあとが良く分かる。


緑の貝殻に入った大きなヤドカリ。
木の下や茂みの中で多く見られた。

… フライングレムールとヒゲイノシシ …
フライングレムールは、数個体発見できた。樹木の肌そっくりの擬態だがキラキラ光る大きな目が印象的であった。しかし、真上を見上げての撮影は困難を極めた。ヒゲイノシシは、夕方になるとロッジ周辺に姿を見せた。植物やミミズを食べるために大きな穴をボコボコと開け、落下したヤシの実を食べていた。
翌朝、食い散らかした断片を山口君が集めてきた。見事にバラバラにしているが、良く見るとリスによって穴を空けられた実だけが食べられていた。つまり、リスが先に仕事をしてくれないと、ヒゲイノシシは食事にありつけないことになる。面白い関係だと思った。

フライングレムール成獣

フライングレムール幼体

ヒゲイノシシ

ヤシの実のカス

… 出てこなかつたオオトカゲ …

美しい毒ヘビ、ピットバイパー

マングローブの小型カブトムシ
満潮時前、私たちは桟橋近くの木道でマレーミズオオトカゲの出没を待った。満潮に乗ってやってくる魚を食べにくるのだと言う。しかし、30分、1時間待ってもオオトカゲの姿はない。ついつい誰からともなく私語が出始め最後は学校の休憩時間のような会話となってしまった。その日の夕食時、「何をしに来たのか」と怒られたのは言うまでもない。私たちは研修に来る前、「野生動物の家を訪問するのだから、観察中の私語は慎もう」と約束をした。それが、たった1時間であっさりと崩れてしまったのである。しかも、まえのばんにはNHKの伊藤カメラマンから、動物撮影の苦労話を聞いたばかりであった。 結局、オオトカゲを見られたのは自由時間に一人で観察に行った北嶋さんだけであった。

… バコを去る最後の日 …

海を歩いて船に乗り込む。来る時も感動、そして帰る時も感動のバコ。
いよいよ国立公園を去る最後の日が来た。集合までは、少し時間があった。今までの私だったら、屋根の下で冷たいものでも飲みながら、出発時間を待っていたと思う。しかし、強い日差しの中、何度も歩いたマングローブ林へ行ってみた。心の中で、何度も見た美しい風景や動物たちに「さようなら」を言いに行ったのかもしれない。マングローブ林の中を通るも木道に来ると、葉を食べているテングザルがいた。バコに来て最初にあったのもテングザル、そして最後もテングザルだった。「見送ってくれるの?」と一瞬思ったが、「彼はいつも通りの生活をしているんだ」とすぐに気がついた。 この日は大潮で、海の水がすっかり引いてしまっている。桟橋からボートが出せないため、素足になり、海の中をバシャバシャと歩いてボートに乗り込んだ。やがてボートが動き出す。なぜか誰もしゃべらない。走り出して数分、後ろを振り返ってみると遠ざかるロッジの屋根が樹木越しにちらりと見えた。「いつの日か、また彼らに会いに来よう」そう心に誓った。

… 彼らは森の人だった …

幹につかまるオランウータン
クチンに戻った私たちは、セメンゴにある野生動物リハビリセンターへ向かった。ここは保護されたオラウータンを自然復帰させるための野外飼育場である。餌の時間になると、数頭のオラウータンが高木から降りてきた。彼らはサルではなく、樹の上で暮らす森の人だった。

… 帰国、そしてアフリカへ …

餌台に降りてきた親子の
オランウータン
今回の研修で撮影したフィルムの数は20本を超えた。フィルムの中には、始めてみた野生動物たち、そして美しい風景が納められている。しかし、私はその内の何割かを失ってしまった。原因の多くは手ブレである。今後はもっとしっかりと、カメラの技術も身に付けなければならない。
 今、教室には大きく引き伸ばされた何枚かの写真が展示されている。その写真を見るたびに、心が一瞬バコへ飛ぶ。私の見た動物たちは今どうしているのだろうか?「私の見た動物たちは今どうしているのだろうか?」しかしその一方で、心は次のアフリカに向いている。 「早くサバンナに行きたい」と―。
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